食品の残留農薬:万能検査法なし 中国製冷凍カツも検出、輸入頼りの日本
◇カロリーベース6割
「メタミドホス」「ジクロルボス」に続き、中国製冷凍カツから有機リン系殺虫剤「ホレート」が検出された。いずれも中国では農薬として使用されている。カロリーベースで6割を輸入食料品に頼る日本。「食の安全」に対する不安が広がっているが、国内では食品中の残留農薬はどのように検査されているのだろうか。【下桐実雅子】
http://mainichi.jp/life/food/news/20080224ddm016040148000c.html
◇多種多様な性質
「有機リン系殺虫剤は農薬の代表的な系統だが、同じ系統であっても性質は違う」。東京都健康安全研究センターの永山敏広・残留物質研究科長は説明する。
例えば、メタミドホスは水によく溶けるが、ジクロルボスの溶ける量は、その10分の1以下と少ない。02年に中国産冷凍ホウレンソウから基準を超えて検出された有機リン系殺虫剤「クロルピリホス」は、水にほとんど溶けない。このほか、熱に強い・弱い、気体になりやすい・なりにくい、など農薬の性質には大きな幅がある。
しかも、国内で登録されている農薬成分は525種類(1月末現在)、世界中では600~700種類が使われているといわれている。これらをすべて調べるには、コストも時間もかかる。このため、どの農薬を検査対象にするかは、農産物での使用状況、輸入品なら原産国での農薬使用実態や過去の検出頻度などによって、自治体などの各検査機関が判断している。
◇抜き取り検査で
自治体の場合、市場に流通している食品について、輸入、国産を問わず抜き取り検査をしている。第1段階は検査対象とする試料の入手で、食品衛生監視員がスーパーなどから集める。
キャベツなら「4個の外側の傷んだ葉やしんを除き4等分したものを集めたもの」をよく混ぜて、そこから20グラムを検査に使う。ごぼうは「泥を水で軽く洗い落とし細く切り、肉ひき器ですり砕く」と、食品衛生法に基づき規定されている。ほとんどの野菜や果物は洗わないで調べることになっている。
◇妨害物質の影響も
実際の検査では、多くの農薬を一度に調べられる一斉分析法と、個別分析法がある。一斉分析法は大きく分けると、ガスクロマトグラフ・質量分析計と、液体クロマトグラフ・質量分析計を使う方法があり、厚生労働省が通知している。調べたい農薬が熱して気体になる性質ならガスクロ、熱に弱かったり気化しない性質なら、液クロを使う。一方、個別分析法は一斉分析法では調べられない農薬や、一斉分析法の結果を確認するためなどに使われる。
食品には農薬と見分けにくい成分がもともと含まれていることがあり、そうした「妨害物」を精製段階で排除する必要がある。永山さんは「農薬に近い成分が検出されても、それが食品成分だったり、他の農薬の成分の可能性もある。複数の方法で調べ、さらに確認の検査をするなど、念には念を入れる」と話す。農薬の場合、食品添加物に比べ、食品中の濃度が1000分の1程度と微量なため、妨害物の影響を大きく受ける難しさもある。
◇精度に差も
日本では06年5月、ポジティブリスト制が導入された。これは「残留を認める農薬」を一覧表に示すという考え方だ。それ以外の農薬は一律基準(0・01ppm)以下に規制される。導入前は残留基準が設定されていない農薬は、残留があっても規制できなかった。農薬の規制強化となり、多種類の農薬を短期間で分析することが求められるようになった。昨年10月に開かれた日本食品衛生学会(静岡市)では、食品中に含まれる残留農薬に関する発表が目立った。
分析機関の「テクノスルガ・ラボ」(静岡市)の対比地(ついひじ)信夫・研究主管は、市販の輸入中国茶の同一試料について、熟練者2人と初心者2人に303種類の農薬を分析させた結果を発表した。熟練者2人はどの農薬も似た数値だったが、初心者の一人の結果は、熟練者に比べると検出量が多い傾向にあり、もう一人はすべてを不検出とした。妨害物の影響を受けたり、前処理がうまくいかなかったことなどが原因と考えられるという。対比地さんは「機械があれば分析はできるが、分析結果を正しく判断するにはその農薬が使われる状況まで考慮するなど、幅広い知識が必要だ」と指摘する。
一方、食品会社や輸入業者、生産者が自主検査するケースも出てきた。数百種類の一斉分析をセット価格で、企業などから請け負う民間分析機関もある。しかし、一斉分析法は食品によって精度に差が出ることもある。
「日本油料検定協会」(神戸市)の重永哲也さんらは、農薬86種類を食品に添加し、厚労省が示した一斉分析法や一斉分析法に変更を加えた独自の方法を使って、検出精度を調べた。リンゴはおおむね精度よく検出できたが、ゴマは農薬によって結果にばらつきがあった。重永さんは「ゴマは油分で分析機器が汚れるためと考えられる。ギョーザのような加工食品は油分を含むうえ調味料や添加物が多い。食品成分も分かりにくく、分析は難しい。万能な分析法はないのが現状」と打ち明ける。
◇ギョーザ問題受け、メタミドホスの基準設定
残留農薬は国が定める基準を超えて検出されると、食品衛生法により販売が禁止される。ポジティブリスト制導入に伴い、758の農薬や家畜用医薬品などについて、暫定的な基準が設定された。これらの農薬などについては、国の食品安全委員会が順次、人の1日摂取許容量を決める健康影響評価を行っている。この許容量に基づき、厚生労働省が正式な残留基準の設定を進めている。
国は、今回の中国製冷凍ギョーザ問題を受けて、メタミドホスについて優先的に残留基準を決めることにした。メタミドホスのように国内で製造や使用が認められていない農薬が含まれる食品であっても、残留が基準以下であれば輸入は認められる。
輸入食品は食品衛生法に基づく届け出が義務付けられており、港や空港に着くと審査や検査を受ける。検疫所では添加物の使用基準を満たしているかや有害物質が含まれていないかなどを書類審査する。書類審査により、必要と判断されれば、残留農薬や添加物、細菌の検査が行われるが、実際に検査されるのは全体の1割程度だ。違反で最も多いのが、残留農薬や添加物の基準不適格という。
残留農薬以外にも、食品添加物、細菌、ダイオキシンなどの有害物質について、輸入品、国産品を問わず、自治体が抜き取り検査をしている。
毎日新聞 2008年2月24日 東京朝刊
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