化学物質による食中毒
金沢大学大学院医学系研究科教授 城戸照彦
病因物質判明前に対応を
わが国の4大公害病の一つに水俣病があります。化学工場の廃液に含まれていたメチル水銀が水俣湾に流れ込み、食物連鎖を介して生物学的に濃縮された魚介類を食べた沿岸住民に発生しました。
http://hokuriku.yomiuri.co.jp/hoksub7/clinic/ho_s7_08041601.htm
特に、胎児性水俣病は著しい発達障害が表れ、その悲惨な様子は世界的な雑誌ライフの一面でも紹介されました。ところが、その水俣病が近年、食中毒の視点から見直されています(「医学者は公害事件で何をしてきたか」岩波書店)。
一般に、食中毒の統計は原因食品、病因物質に分類されます。例えば、あるレストランで食事をした人たちが下痢や腹痛を訴えれば、誰でもまず食中毒を考えるでしょう。その際、最初に症状を訴えた人が食べた食品を調べます。そこで、ある魚介類が該当すれば、これが原因食品です。
次に、この魚介類を汚染している物質を検査します。通常は細菌やウイルスであることが多く、これを病因物質といいます。病因物質が判明するには早くても数時間、遅ければ数日を要します。しかし、実際の対策はもっと迅速で、原因食品が特定されれば、すぐにそのレストランは営業停止になり、それによって被害の拡大が防げます。
では、水俣病ではどうだったのでしょうか? 当時、食中毒と考えれば、原因食品である「水俣湾の魚介類」を食べることを禁止するだけで、メチル水銀が病因物質と判明される以前に被害を最小限にできた可能性がありました。しかし、現実には食中毒の視点での解明はなされず、そのために、認定患者だけでも約3000人、それ以外にも1万人以上の被害者が発生しました。
大変残念な出来事であり、二度と繰り返してはいけない歴史的事件です。
なお、前回の食中毒の保健統計で、化学物質の内訳に「添加物」と記載しましたが、公式な裏付けはありませんでした。
(2008年4月16日 読売新聞)
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