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「正しいこと」を押しつけられた彼

 極論かもしれないが、周りの女性たちを見渡してみると、概して「正しいかどうか」にこだわりやすいような気がしてならない。もちろん、正しいことはいいことだ。だが、それを御旗にされると周りはつらくなる。

http://www.ohmynews.co.jp/news/20080508/24715

 「以前の彼女は、仕事は一生懸命やっていたけど、ブランド好きで遊び好き。掃除も料理もしないから、一緒に遊ぶには楽しいけど、生活をともにする気にはなれなかったんです」

 祐紀さん(32歳・仮名=以下同)はそう言う。その彼女と別れ、しばらくは誰ともつきあう気になれなかった。ところが1年ほど前に知り合った2歳年上の智美さんの堅実なところに引かれ、つきあうようになった。

 「彼女がタバコが嫌いだというから、やめました。まあ、もともとやめようと思っていたから、それはいいきっかけになった。酒も、彼女の意見を聞いて、酔うためのがぶ飲みはやめて料理とともに味わうような飲み方に変わりました。一緒にスポーツジムに行ったり、ジョギングをしたり、こういうのもけっこう楽しいなと思うようになっていったんです」

 ところが、彼女は実はかなりの健康オタクだった。彼はその類のことにはほとんど興味がない。智美さんは、徐々にその「本当の顔」を表すようになっていく。

 「彼女が『料理を作ってあげる』とウチに来たんですが、『マンションなのに浄水器もつけてないの』と言って驚いていたんです。飲むのはミネラルウオーターを買っているけど、彼女は野菜を洗うにも浄水器じゃなければダメだ、と。そのまま浄水器を買いに行かされました。その上、彼女が買ってきた食材はすべて有機野菜や無農薬のもの。肉も、なんだか特別のものでした。おいしかったけど、彼女のうんちくを聞かされて、ちょっと辟易(へきえき)としましたね」

 ワインも有機栽培のブドウを使ったもの。買ってきたコーヒー豆も同様だった。彼用のサプリメントもプレゼントされた。

 「健康に気を遣うのはいいことだと思うけど、なんていうのかなあ、ジャンクフードを食べるのは許せないみたいな彼女の言い方を聞いていると、なんとなく窮屈なんですよね。僕はポテトチップ食べながらDVD見たりするのも好きだし、時にはコンビニで弁当買ったりもしますよ。だけど、彼女はそういうことを一切許さない。添加物についても詳しいんだけど、知らぬが仏ってこともあるし、何もかもすべて完ぺきになんてできないでしょう」

 1週間後、洗濯用、台所用の洗剤は環境によくないからと、彼女は、「地球に優しい洗剤」を買って現れた。家にあったカップラーメンは知らないうちに捨てられていた。

 「彼女は常に僕の味方でいてくれるし、仕事でイヤなことがあったりしたときも、すごく親身になって話を聞いてくれる。彼女を放したくないという気持ちは強いんです。だけど、最近、彼女といると違和感を覚えるのも事実。早寝早起きして、健康によくないことは一切せず、ゴミの分別も完ぺき、いつでもエコバッグをもっている彼女は、確かにブランド好きで整理整頓ができなかった前の彼女より、ずっといいパートナーだと思う。それでも、オレは本当に彼女といていいんだろうかと考えることがあるんですよね」

 彼女は正しい。正しい彼女に逆らう気持ちが芽生えること自体、自分がろくでもないヤツのように思えてくる、と祐紀さんは苦笑する。特に彼の健康を考えてくれている彼女に反発はできない。

 「会えない日はメールが来るんですが、『今日は何を食べた?』と聞かれます。本当は牛丼を食べていても、『会社の近くにある自然食品の店で弁当を買った』とうそをついてしまう。彼女には自炊を勧められていますが、夕食はだいたい居酒屋に行っちゃいますね。『居酒屋に行くのはしかたないけど、あまり脂っこいものは食べないようにね』なんてお達しがくる。強烈に押しつけてくるなら反発もしやすいけど、彼女の場合は『心配だから』という一言がいつもくっついてくるんです。だからよけいに何も言い返せない。最初はうれしかったけど、今は少し重荷になっている。小さなささくれがいつでもあるような、何ともいえないうっとうしさなんですよね」

 彼女のことは信頼できるし、手放したくはない。だが、正義の御旗を掲げる彼女に対して、どこか完全にくつろげないところがある。そろそろ結婚を考えたいと祐紀さんは言う。だからよけいに、彼女でいいのかという気持ちが日に日に大きくなる。

 「もうしばらくつきあっていきます。どういう方向に行くかはまったく見えないけど。彼女は変わらないだろうから、僕自身がどこまで妥協できるかという問題になるような気がします」

 こういう問題は非常にむずかしい。生活に直接かかわってくることだから、それぞれが勝手にやればいいというわけにもいかない。祐紀さんは、いつどんな結論を出すのだろうか。

[かめやま・さなえ] 1960年、東京生まれ。明治大学文学部卒業後、フリーランスのライターとして活動をはじめ、愛と性にまつわる人間の根源を追究している。主な著書に『不倫の恋で苦しむ男たち』(WAVE出版)や『なぜ、この人でなければならないか』(WAVE出版)、『性を追う女たち愛と快感』(講談社)、『マリッジ・セックス』(新潮社)などがある。東京消防庁に密着したノンフィクション『救う男たち』もWAVE出版のウェブサイト内で好評連載中。

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